宇和海沿岸地域の南海トラフ地震事前復興デザイン共同研究の取り組み
「事前復興」の概念は、既に 1995 年の兵庫県南部地震による阪神・ 淡路大震災を教訓に提起されていた。同様な発想はその10年近く前にも国土庁(大都市圏整 備局)と建設省(都市局・住宅局)において、事前に復興計画を検討しておくという調査研究 が行われていた。しかしながら、その時点の「事前復興」は大都市圏の地震防災(例えば、東京都圏の首都直下型地震への備え)に向いていたため、未曾有の大災害となった東日本大震災の巨大津波災害に対しては初動から復興に至るまで、その概念が生かされることはなかった。
当時、マグニチュード 8 クラスの宮城県沖地 震が30年以内に99%の確率で発生すると予測されていた中、マグニチュード 9 クラスの巨大 地震の可能性を想定し、壊滅的な災害からの復興に備えるための検討は皆無であった。「事前復興」に取り組むことの重要性は、過去の経験を大きく上回る災害の可能性を受け入れ、そのような最悪の事態も想定したうえで被災後の復興の姿を考え、それが現実となったときの新たなまちづくりの道程を地域全体(行政と住民)が共有することにある。
従前からの防災施策の考え方は、過去の経験に基づいて想定される災害規模を前提に防災計画を定め、災害後の状況に応じて復旧・復興にあたるという手順であったが、「事前復興」は従来の防災検討では対象とはなりえなかった過去の経験を大きく上回り地域を壊滅に追い込むような災害の発生も想定内とし、被災地域の復興(方向性、手順、計画など)を事前に準備するという概念で ある。この取り組みは復興(新たなまちづくり)のプランとそのための体制を予め整えておくことであり、最悪の事態が現実となったときにその復興に総合性を持たせながら迅速性と即効性を確保することを目的としている。また、「事前復興」は地域に特有な災害事象や固有の課題 を把握し対策を重ねることで、事前に地域の災害ダメージを軽減するための防災・減災の効果 も含んでいる。さらに地域住民と行政がともに考えることで事前に復興の姿(行うこと)を共有し、被災後の復興にむけての合意形成を速やかに行うための準備でもある。これらは、東日本大震災において顕在化した問題の発生に備え、それらを教訓とするための対処法である。
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